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新たな教師の学びの姿の実現に向けて(2)


 前回の投稿でも御紹介のとおり、2021年11月15日(月)の中央教育審議会特別部会で、「『令和の日本型学校教育』を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて(審議まとめ)」が示され、教員免許更新制の発展的解消等についても提言されました。中央教育審議会特別部会の部会長代理であり、実現に向けて大きな役割を担う(独)教職員支援機構(以下、NITS)荒瀬克己理事長にインタビュー。審議まとめの受け止めや、今後の展望等についてお話を伺いました。

(独)教職員支援機構(NITS)荒瀬克己理事長 プロフィール

京都市立堀川高等学校長、京都市教育委員会教育企画監、大谷大学文学部教授、関西国際大学学長補佐を経て現職。中央教育審議会副会長、初等中等教育分科会長、「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会委員、大学改革支援・学位授与機構国立大学教育研究評価委員会委員等を務める。著書に『奇跡と呼ばれた学校』(朝日新書)、『「アクティブ・ラーニング」を考える』(共著、東洋館出版社)等。「月刊高校教育」(学事出版)にコラムを連載。


まずは、今回の審議まとめ全体をどう受け止めていらっしゃるか教えてください。

 免許更新制について、発展的に解消するという審議のまとめは妥当だと思います。
 一方、まとめの書きぶりについては色々な見方があります。
 例えば、「教師という専門職への敬意がより込められた表現であるべき」というお考えです。こちらについては、審議まとめ「おわりに」(※1)に書かれている以下のメッセージをしっかり広報することが大切なのではと思います。まさに教師の専門性への敬意が込められた内容です。
(※1)本審議まとめの重要なメッセージの一つは、学びに専念する時間を確保した 一人一人の教師が、自らの専門職性を高めていく営みであると自覚しながら、 誇りを持って主体的に研修に打ち込むことができるという姿の実現を目指して いくということである。

 また、研修履歴の「管理」ということですが、この「管理」という表現のとらえ方についても注意が必要です。この履歴は教師の学びの履歴で、学校管理職等との積極的な対話を行いながら教師自身が自分の学びを振り返るために活用することが重要です。そもそも教育基本法など法令(※2)では、教師は絶えず学び続けるものであり、研修を充実する義務がある旨を定めています。
(※2)(教育基本法第9条)「法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、 その職責の遂行に努めなければならない」
2 「前項の教員については、その使命と職責の重要性にかんがみ、その身分は尊重され、待遇の適正が期せられるとともに、養成と研修の充実が図られなければならない」
 (教育公務員特例法第 21 条)「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない」

 このことは、学ぶ内容を固定化して強制するということではなく、むしろ主体的に学び続けたい教師に、その環境を提供するべきということだと思います。
 学習指導要領がうたう「主体的・対話的で深い学び」は子供にとって大事なだけでなく、教師にとっても大事です。教師としてキャリア形成する上で、どんな学びをしたいのか、どんな問題に気づいて取り組もうとしているのか、振り返りつつ学び続けることが重要です。
 そのように教師が学べる環境を整えるためには、教師の本来の仕事は何かを見直し、山積みになっている業務を減らすこと、そして十分な人員を確保することの両輪が必要です。できるところから取り組み、改善を目指し続けなければなりません。

審議まとめには「教員免許更新制の発展的解消」とあります。これまでの研修の成果を活用した取組が期待されていると思いますが、いかがでしょう。

 まさにその通りで、今まで大学が主に担ってきた長年の更新講習の蓄積の中で生まれた知見、特に体系的な学びの在り方は、今後つくるプラットフォームの中でも、選択可能なものとして活用していくことが必要だと考えています。

「新たな教師の学びの姿の実現に向けて、現場の教師の負担が一段と増加するのでは」といった声もあるようですが、どのようにお考えでしょうか。

 意味のない負担が増すということは、絶対に避けるべきことだと考えます。形式的で得るものの少ない、いわば「研修のための研修」は意味がありません。
 ただし、子供たちの「個別最適な学び」と「協働的な学び」、つまり「令和の日本型学校教育」を担うための努力は必要です。例えば、もっと学校ごとの事情にフィットした校内研修を、管理職を含め先生自らがデザインできるようになるための研修が求められるでしょう。一方的に聞いて終わりの受け身の研修ではなく、参加者が振り返り、得たものを語り合う研修が大切になると思います。まさに「主体的・対話的で深い学び」そのものです。
 このような移行には、校長をはじめとした管理職の真のリーダーシップが求められると考えています。「横並び」とか、「同調圧力」とかを脱して、教師の新たな学びを創出していくことが重要です。

新たな教師の学びの姿の実現に向けた、NITSとしての抱負をお聞かせください。

 先にお話ししたような学びの環境を整えるために、現在私たちの研修の在り方を見直しています。コロナ禍の影響で研修をオンラインでやっていますが、メリットとして、人数制限がなく移動の負担がないこともあり、より様々な立場の方の参加が可能になりました。内容の体系化を一層進めるとともに、集合型とのハイブリッド形式も検討しています。
 今までも20分間の比較的短尺な研修動画を用意してきましたが、今後は10分ぐらいのものを新たに作ることも検討しています。これらは視聴して終わりではなく、ラウンドテーブル的にその後10分程度でも、感想や疑問を語り合う場づくりをすることが重要で、その場を楽しく、深い学びの場にできるファシリテーターを育成していきたいです。
 「審議まとめ」で提言された新たな教師の学びの姿の実現のための環境づくりに向けて、教育委員会や大学、学校関係者等と十分に意思疎通を図りながら、文部科学省と共に取組を進めてまいります。


全国の教育委員会や現場の教師へ、メッセージをお願いします。

 先生の健康と笑顔が、子供にとって一番大切です。
 例えば、小学校学習指導要領の前文には、このような言葉があります。

「…一人一人の児童が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。…」

 子供が自分のよさや可能性を認識し、他者を尊重する。そういった自己肯定感を持つためには、子供一人一人を支える先生自身が自己肯定感を高め、心の余裕がある状態で子供にどっしり向き合っていただけることが大切だと思います。
 先生方が、子供の学びを支えるという仕事にしっかりと向き合っていただけるよう、私たちNITSとしても、心を込めて取り組んでいきたいと考えています。

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