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部活動改革に取り組む、つくば市立谷田部東中学校の八重樫通先生インタビュー【後編】

前編に続き、後編をご紹介します。

取り組まれる中で、御苦労された点、工夫された点について教えてください。

ー学校にとって部活は伝統的な文化ともいえるもので、それを変えようとすることは困難を極めました。これまでに前例のない取組であり、いろいろな立場からの対極的な御意見や批判もいただきながら、手探りで改革を進めていくしかありませんでした。

特に、生徒や保護者はもちろん、部活に膨大な時間を捧げてこられた先生の理解が得られるか、財源、指導者の確保、責任問題、受け皿となる団体探し、社会的コンセンサスは得られるか、などクリアするべきハードルは多数存在します。
そのハードルを越えるために重視しているのは「公共性の担保」です。公立校の取組として、できるだけ受益者の負担を抑えながら全ての生徒がスポーツや文化を楽しめる機会提供をし、成長を地域全体で支えることを大切にしています。
財源のハードルに対しては、とりわけ規模の小さい茎崎中では困難を極め、クラウドファンディングにも挑戦し、なんとか達成することができました。

クラウドファンディング

そして、社会的コンセンサスを得るには、情報(メディア)戦略も必要です。部活動改革の現代における必要性やメリット、国全体のムーブメントとして前向きに伝えていくことで、気づきを得ていただけます。

変わる学校スポーツ掲載

(「変わる学校スポーツ」Sports Japan vol46掲載)

また、先生方や保護者の皆様に安心していただき、可能な限りこの取組に協力していただけるよう、教師向け、保護者向けアンケートをとるなどして、声を傾聴するようにしています。

保護者アンケート(実施日:2019年2月 対象者:DCAA会員保護者100名)

楽しく参加できているか

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教師は顧問をやらないことも、兼業で有給でやることも、選択できることが大切です。本校では本年度から許可を得てDCAAで教員の兼業を活用しています。
選択できる時代にむけて周囲の理解、仕組みと受け皿、財源という課題解決に向けた本校の取組の特徴は、以下のようになるかと思います。

①学校と地域、民間が協働・融合した部活動の地域移行の取組

②市民団体による運営、受益者負担、学校を会場、スポーツクラブ等の地域の指導者活用

③教員の兼業の開始

④休日の安全対策としてアスレティックトレーナーの配置

⑤トライアルとして今年から一部の種目で土日の部活動を完全に無くし、学校部活動を一週間に平日2~3日に限定 → 将来は全てを地域へ

⑥学校単位から地域単位へ → 部活動に左右されない学校経営


地域部活動イメージ

スポーツ庁による部活動改革の取組についてどのように受け止めていらっしゃいますでしょうか。

ー令和2年9月1日に文部科学省から「学校の働き 方改革を踏まえた部活動改革について」が学校現場に通知されました。受益者負担や兼業制度など、ほぼ私が取り組んできた実践が国からも公に追認されたことで、まるで壁の崩れる音が聞こえ始め、ほんの少しですが学校の部活文化の壁が低くなったように感じられました。その後も、2021年の働き方改革の事例集の展開や、新たな委託事業のスタートなど、文部科学省やスポーツ庁の後方支援で現場の校長は動きやすくなり、パンドラの箱の鍵となったと思います。
より支援の強化をいただきたいポイントとしては、土日の地域部活動の安全対策で、DCAAではアスレチックトレーナーを配置していますが、それには財源が必要になります。同じく、教員の兼業にも財源が必要ですし、管理職は人的管理マネジメントが必要になります。地域移行は指導者謝金だけでは実現不可能なのです。消耗品、マネジメント費用、安全対策費用なども織り込んだ支援が必要であり、またスポーツ振興センターによる災害共済給付の代替となる制度や、経済的困窮者に対する支援制度が必要になると思います。スポーツ庁の取組、文科省の「#教師のバトン プロジェクト」により課題が可視化されたことは改革の追い風であると感じています。

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今、部活動改革が大きな注目を集めていますが、これから取組を始める学校管理職に伝えたいメッセージをお願いします。

―すでに学校の働き方改革は大きな波になりつつあり、部活動こそが働き方改革の本丸であることは誰もが理解されていることです。ただ、いざ自校の部活動に切り込むとなると決して簡単ではないため、どうしても議論は「部活動はアウトソーシングすべき」、「行政が主導すべき」 という「べき論」で終わりがちです。
そんな「べき論」を形にできるのは、実践家である校長だけです。真の改革は問題を内包しています。つまり、問題のない改革などありません。また、教育実践に著作権も正解もありません。「そんなことを本当にやっていいのか。」と人が驚き、笑うような「そんなこと」が子供たちの未来をつくる活路になると思います。
そもそも、何のための改革なのかといえば、たった一人でも取り残さずに幸せにするためです。学校の働き方改革は部活動改革だけでは成就しません。私は、茎崎中時代から部活動改革とともに、学校の総合的なデジタル化やチーム担任制、45分授業と25分授業を組み合わせたカリキュラムマネジメントなど、総合的な働き方改革に取り組んでおり、これらが有機的に結びついて行かねばうまくいかないのです。例えばチーム担任制を進めるには学校のデジタル化は必須条件だと思っています。現在谷田部東中では、徹底的なデジタル化を進めており、予定共有、会議、生徒への連絡等も基本的に全てTeamsで行っています。
生徒はもちろん、教師を目指す若者に、学校は夢と希望の場所だと伝えられるように、学校の働き方改革、部活動改革を実践いただけたらと願っています。

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