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【後編】熊本市教育委員会による働き方改革をはじめとした様々な取組の、今までとこれから

前編に続き、後編をご紹介します。

学校や保護者など関係者と課題を共有できたからこそ、働き方改革をはじめ様々な改革が現場に浸透してきたのではないかと思いますが、どのような点に留意しながら進めてこられたのでしょうか。

私が常に意識してきたのは、一部の意見ではなく全体像をとらえる、ということです。
教職員全員、児童生徒全員、保護者全員にアンケートをとって、一部の意見ではなく、全体としてどういう方向を望んでいるかを常に明らかにしながら進めています。最初に時間創造プログラムを作るときにも、全教職員にアンケートをとって提案を出してもらいましたし、2回目の時間創造プログラムを作るときもアンケートをとって、これまでの時間創造プログラムの成果やこれからの提案を全教職員から聞いているんですね。私はそれを全部-結構な件数ですが-読んでできるだけ時間創造プログラムに取り入れるようにしました。
オンライン授業についても、教職員、児童生徒、保護者に意見を聞くと、それぞれ考え、意見が違うんです。象徴的だったのは、「オンライン授業の時間数が多かったか、ちょうどよかったか、少なかったか」 を聞くと、保護者からは「時間が少ない」という意見が多かったんですが、教員、児童生徒は「ちょうど良い」という声が多かったんです。中学校では「多かった」という意見も結構ありました。

※アンケートより抜粋:オンライン授業でよかったこと、もっとこうしてほしいと思うこと (特にそう思うこと3つ) 【子供】

小学生

※アンケートより抜粋:オンライン授業の成果と課題 (特にそう思うこと3つ) 【保護者】

保護者

PTAや議会からは、「(オンライン授業の時間数が)全然足りない」、「もっと増やせないか」といった意見が寄せられました。でも、保護者はそう言っているけれど、実際授業をやっている児童生徒と教員はそうは言っていないんです。それが分かっていれば、今のやり方でいいんだということが説明できるし、自信を持って取組を進めることができます。
最初は反対意見もあるかもしれないけれど、全体像を見て、これが子供の幸せにつながると判断してぶれないようにすれば、最終的にはみんなが望んでいる姿を実現できる、ということを私だけでなく、教育委員会全体で大切にしています。

〔熊本市教育委員会〕オンライン授業事後アンケート 全体版はこちら↓
http://www.kumamoto-kmm.ed.jp/files/35057/2126259336.pdf


特に、学校で働き方改革を進める上では管理職の役割が重要ですが、どのような点に留意されましたか。

学校管理職に対しての巻き込みという視点では、毎年、プログラムの実施状況のフォローアップとして「学校経営重点計画」を出してもらうんですよね。今年の重点目標として、働き方改革、部活動ガイドラインの遵守状況などを含め定量的に設定してもらい、去年の実績も含め、統一のフォーマットに まとめて申請してもらっています。

参考〔熊本市教育委員会〕令和3年度学校経営重点計画フォーマット


その際、学校行事の見直し、掃除の頻度の見直し、校務分掌の見直しなど、学校の事情に合わせて考えていただいています。また、これは教育委員会として、今までは授業時数について多い学校では標準授業時数プラス70~80時間ほど余裕を持たせていたものを、20時間程度を目安とするよう統一しました。今後は標準授業時数と同じにすることを原則にしていきます。

第2期 学校改革!教職員の時間創造プログラムより抜粋〔p.25〕

r参考〔熊本市教育委員会〕第2期学校改革!教職員の時間創造プログラム(案)抜粋_2


熊本市だけでも、教員は約4,000名、校長は約140名います。研修だけで働き方の意識を変えることは難しいので、校長が自分の学校でリーダーシップを発揮し、マネジメントしやすい仕組みを作る のが教育委員会の仕事だと考えています。教職員の勤務時間などを把握したうえで、学校の事情に合わせて具体的な目標を設定し、それを毎年振り返る仕組みを作ることによって、教育委員会として働き方改革を浸透させ 、進捗を可視化することが可能になっていると思います。
今後も、先ほどお話したような部活動の外部委託や、教頭の勤務時間改革に重点を置きながら、時間創造プログラムの実現に向けて仕組みを整えていきます。


これまで働き方改革はじめ様々な取組を進められてきた中で、最も気を配られた点、ご苦労された点は何でしょうか。

まずは全体像を捉えること、そして、今やっていることが子供たちのためになるんだという確信が持てる のであれば、覚悟を持ってやり抜くということを大切にしています。どの課題でも、自分の判断や行動をできるだけパターン化するように気を配っています。同じ考え方や方向性に沿って判断するということです。

ちなみに、行動がパターン化されているということは、言い換えれば「予測可能性」があるということです。個人的に、これはリーダーというか、上司に必要なかなり大きな要素だと思います。毎回毎回、この人は何を言うかわからないという人の下で働くと働きにくいですよね。ですからいつも、言っていることが変わらないように心がけています。今日でも、明日でも、機嫌のよいときでも、悪いときでも、いつでも同じ判断ができるのが理想のリーダーではないでしょうか。

遠藤教育長4


お聞かせいただいたように、遠藤教育長は様々な取組を推進され、成果をあげておられますが、一方で、全国を見渡すと、必ずしも全ての学校で業務への負担が改善されているとは言えません。他の自治体でも取組を加速化するためにはどうすればよいとお考えでしょうか。

一つには、文部科学省が始めた「#教師のバトン」もそうですし、熊本市で時間創造プログラムを始めた時のアンケートもそうですが、一部ではなくみんなの声を聴くことが重要だと思います。私たちは全教職員にアンケートをしてきているので、「#教師のバトン」で出てきたような意見は、私たちには驚きはあまりなく、アンケートを通じて把握できているものが多いと感じました。
他の自治体の方にアドバイスする立場ではありませんが、私たちの経験からは、いろいろな人の声を常に集める努力を続けるのが大事だと思います。
また、トップの意識や教職員の意識、教育委員会職員の意識を変えなきゃ、ということから始めようとするとたぶん何も変わらないでしょう。
そもそも、人の意識を変えるより行動を変えることが大事だし、意識は、環境や仕組みが変わり、行動が変わってから最後に変わるものです。
例えばタブレット端末の導入も、まずはモノを入れる、そして、全教職員に持ってもらい、使ってもらう。使ってみたら役に立つ。それからだんだん意識が変わっていく。環境づくり、仕組みづくりこそ、教育委員会の仕事だと思っています。
予算がなくてもできる仕組みもありますが、その実現に必要な予算はしっかりつける、というのも教育委員会の重要な仕事です。現場の声に耳を傾けて、仕組みを作り、各校の進捗状況を確認しているからこそ、市長部局や議会に対しても説得力を持って説明ができますので、その両輪が大切だと思います。

最後に、子供たちの人生を変えるくらいに重要な職業である教師を目指す方々に対してメッセージをいただけないでしょうか。

今、教師を取り巻く環境は厳しい現実もありますが、仕事というものは、10年、20年、30年と長期的に続けていくものです。学校の今の状況を変えていかなくてはいけないし、私たちもその努力をしていきます。この状況がずっと続くわけではありません。ですから、今、この瞬間だけを見て、教職は大変そうだからといって諦めるのではなく、むしろ、今後、状況は改善されていきますし、自分もこの改善をする一員になるんだという意識で是非教師になってもらいたいと思います。

遠藤教育長3

今日はありがとうございました。





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